東京地方裁判所 昭和48年(モ)6540号 決定 1973年6月14日
申立人
福田忠秀
右代理人弁護士
大崎勲
相手方
株式会社金子組
右代表者代表取締役
金子有量
主文
本件各申立は、却下する。
理由
一本件各申立の趣旨および理由は、「右当事者間の東京地方裁判所昭和四八年(ヨ)第三〇七九号建物明渡断行仮処分事件について、債権者(本件申立人)は、昭和四八年五月一一日、保証として金四〇万円を東京法務局に供託(同法務局(金)昭和四八年五月一一日派九〇三号)し、同日付断行仮処分決定を得たが、同決定にもとづく明渡執行は、同月一四日完了し、担保事由が止んだものであるから、右保証につき、債務者に対し権利行使の催告をなしたうえ、権利行使なきときは担保取消決定を求める。」というのであるが、結局、申立人の主張は、本件仮処分執行の完了によつて、民訴法一一五条三項にいう「訴訟完結」に該当するというにある。
二よつて判断するに、本件記録によれば、申立人は、申立人と相手方間の東京地方裁判所昭和四八年(ヨ)第三〇七九号不動産仮処分申請事件につき、昭和四八年五月一一日、保証として金四〇万円を供託して、同日、「債務者(相手方)は債権者(申立人)に対し別紙物件目録記載(省略)の建物を仮りに明渡せ。」との仮処分決定を得たうえ、東京地方裁判所執行官に右仮処分執行の申立をなし、執行官において、同月一四日、右仮処分の執行を終了したことが明らかであり、本案訴訟は未だ提起されていないことがうかがわれる。
ところで、民訴法五一三条三項によつて準用される同法一一五条三項にいう「訴訟の完結後」とは、担保権利者において、その損害賠償請求権の内容が確定し、これを行使しうる状態にあることをいうものと解すべきところ、本件のごときいわゆる建物明渡断行の仮処分にあつては、かりに執行の申立が取下げられても、執行官は、これにもとづく執行の解放を行なわない取扱いが執行実務とされているのみならず、債務者(相手方)の占有を解き明渡断行後は、民訴法五五一条による執行処分の取消はできないものと解せられるから、仮処分執行による相手方の蒙る損害は、本案判決が確定するまで不断に発生し、相手方はその権利を行使しうべき状態にないのである。また、担保提供者は、仮処分執行によつて、本案勝訴判決を得た場合と同一の経済的満足を受けながら、自ら本案訴訟を提起することなく、担保権利者に対し、担保についての権利行使を強要することは、甚だしく公平に反するものである。
これらの点に鑑みると、本件において、単に仮処分執行の終了をもつて民訴法一一五条三項にいう訴訟の完結後にあたらないものというべきであるから、申立人は同項にもとづく権利行使催告を求めえないものである。かような場合には、申立人は、本案判決の確定証明あるいは執行の解放を疎明すべきであるが、本件においてかような疎明はない。
三そうすると、本件催告申立は理由がないからこれを許可しないこととし、あわせて、右催告を前提とする担保取消の申立は失当であるからこれを却下することとする。
よつて、主文のとおり決定する。(遠藤賢治)